椿 昇のRADIKAL DIALOGUEとは何か(半径一メートル以内の好奇心から外へ出るために(2))

NOBORU TSUBAKI 2004-20009 GOLD/WHITE/BLACK(京都近代美術館にて)

 

何の説明もなく広い空間に展示されたものを見て途方にくれた後だった。入口に、この部屋の展示を見て心身に異常をきたす場合もあるので、個人の責任において見るようにという内容の注意書きがある部屋に入ったときのことだ。壁のスクリーンには、バングラデッシュで撮られたという牛の屠殺のシーンが映し出されていた。

大人も子供も集まっており、それが何か宗教的な行事だということは分かるのだが、縛られ、横たえられている生きたままの牛の喉を割き切るシーンは、血に染まる牛や地面だけでなく、その切り口までも映し出しており、最も嫌悪感を催させる映像となっている。

 

それを見たときまず、これは卑怯だと思った。惨殺や血をそのまま見せることで人に衝撃を与えようとするのは、芸術家としてあまりに安易で、丁度映画で子犬や人間の子供を映し、見る者にストレートに感動を与える方法と同じで何の表現の努力もしていないと思ったのだ。それでも気になったのは部屋の中央に置かれた回転する丸い板で、そこに絵とともに黄金色で書かれていたRADIKAL DIALOGUE という言葉だった。

気になったので展覧会のパンフレットとDVD『椿昇 Radikal Monologue(2009 KENJI KUBOTA ART OFFICE製作)を買って家で見てようやく納得できた。

 

パンフレットの説明によれば中央に置かれたものはパレスチナの聖墳墓教会入口の扉の実物大の複製であり、そこを椿が金色に塗り、その扉の上に円形の封印を置いている。その封印にはスターバックスのマークそっくりの女性像が描かれ、その周りにRADIKAL DIALOGUE(綴りを意図的に変えている)と描かれている。

 

 この説明を読んだとき320日に「京都自由大学」で岡 真理氏の講演「ガザ-21世紀における人権の彼岸」を聞いたときの衝撃が蘇った。岡氏も少し触れたが、イスラエルがガザ地区に作った分離壁にスターバックスが多額の資金援助をしたということが展覧会のパンフレットにも書かれている。ならば椿の意図は推論できる。人間の欲望を具現した資本主義によるグローバリスムが、人間同士の対話を阻み、悲惨をも生み出している。しかしそこに求められるのは、「もっとも根源的な対話」ではないか、ということなのだろうと思った。

 

しかしDVDのインタビューで答えている椿はもっと「根源的」であった。彼は言う。「問題があるとき、対話というのは最も原始的だが唯一の解決方法なのだ」と。

 さらに彼は、「オタクには定年がある」と言い、アニメやフィギュアが本流をなしているかに見える現代日本の若いアーティスト達に苦言を呈している。世界で評価され資本主義的な流通に乗っているとはいえ、そこに留まる事はサイードの指摘したオリエンタリズムに回収されてしまうことではないかと警告する。

 椿昇は、アーティストが現実社会においては無力だと明言しており、それでいながらこの現実を見据えて表現せずにおれないという点に感動する。「無力」だと明言することは現実に対する何らかの「力」「働きかけ」への欲求を意識するがゆえに出てくる言葉である。

 

イスラエル人と日本人がパレスチナの壁を移動させ、それで宇宙ステーションを作るのだと説明される作品を見るとき、妄想と片付けることは簡単だ。室井尚が言うように、動かないから壁は壁なのに椿はそれを違うものと見なそうとしている。

「ただ存在する巨大な問題に対し、目をそむけるのでなくて、見続けることが大切だ。自分はその臨界点に立つ」と椿は言う。

 自らの現実における無力さを自覚した上で自分には何かできるか、いや自分は何をすべきかを問いかけること、それが彼の作品が人に送っているメッセージなのだろう。

 

ピアニストの高橋悠治の言説を読んだり聞いたりするときにも同じことを感じるのだが、芸術家というのは何と感受性の射程が遠く鋭いのだろうかということだ。まるで粘膜のように敏感な感受性を持っていると同時にそれが強靭な思考力に支えられていることにいつも感心する。

 また、自分が椿昇と同じ年の同じ月に生まれたことを知った。彼は過激な芸術家なのに同時に若者にエネルギーを与え続けているすぐれた教師(彼自身は「学生には考え方を教えている」と言っている)としての側面を持っていることも聞いてさらに驚いた。

 芸術家でない大学教員としての自分、いや一人の人間としての自分にもできること、やらなければいけないことはある筈だ。そんなことを思った。 (番場 寛)

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