チベットの民話(5)

チベットでは、2月14日に鉄の寅の年の新年を迎えました。

チベット専門ゼミの授業成果として、今回もBlo bzang ‘jam dpal & Tshe ring sgrol ma (eds.), A khu ston pa. Grong khyer lha sa’i phyogs sgrig khag gsum rtsom sgrig pu’u, Grong khyer lha sa’i mang tshogs sgyu rtsal khang, 2001. 所収の笑い話を紹介します。

知恵ある医者

昔、ある国に太った王様がいました。いつも人々は、太った人たちの体形は、母親の体に問題があるためであるかの様に話していました。それが王様の耳に入り、王様は恐れて支配下にある沢山の医者を呼び集めて、「痩せるようにせよ」と命令を下したのですが、できる者は一人もいませんでした。

ある日、知能聡明なある医者が王様の前に来て、「占星術をした結果が良くありません」と言い、頭を下げました。王様が、「占星術の結果を述べよ」と言うと、「私には言う勇気がありません」と答えたため、これまでの様に安心していられなくなりました。王様が続けて、「占星術の結果を包み隠さず言うべきである」と言うと彼は、「王様の寿命は10日程しかないため、痩せたとしても意味がありません。信用できないのなら、私を牢屋に入れてもらっても構いません」と言いました。そこで王様は、言う通りに彼を牢屋に入れました。

王様は、寿命が10日程度しかないということが分かって以来、日中お食事を召し上がることが出来ず、夜は眠ることも出来なかったので、日毎にだんだんと痩せていきました。それでも、10日経っても王様は死ぬことはなかったので、その医者を呼び、わけを尋ねると、「王様を痩せさせるにはそれ以外に方法が全くなかったので、この様にするしかありませんでした」と申し上げたので、王様はとても喜び、彼に沢山の褒美を与えました。(澤井志保美 訳)

このお話には、医者の「占星術をした結果が良くありません」という台詞があります。医学と占星術は関係ないように見えますが、チベットの伝統の中では、両者は密接にかかわっていて、医者は医学だけでなく占星術も学びます。チベット伝統医学の大病院は「メンツィーカン」と呼ばれますが、「メン」は「薬」つまり「医学」を、「ツィー」は「計算」「占星術」を、「カン」は「建物」を、それぞれ意味します。ここからも、医学と占星術の結びつき、あるいは、それがセットになって学び・実践されているということがわかると思います。(三宅伸一郎)

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