「祝祭」(高田ひとし構成・演出、「タブラ ラサ」)「八月、鳩は還るか」(柳沼昭徳 作・演出、「烏丸ストロークロック」)を観て

ハイナー・ミュラーの「ハムレット・マシーン」を舞台化したものだという触れ込みで「祝祭」を観た。 30分前に会場(ART COMPLEX 1928)に入ると服や石ころをばらまいた通路の両側に観客席が設けられており、その後ろに立った俳優がすでにぶつぶつと小声で台詞のようなものを呟いている。男優は下着一枚で、女優はノースリーブのような姿である。
 
その呟かれていたのが「ハムレット・マシーン」のテキストであることは劇の最後で映像として映し出されたテキストでようやく分かる。本番の劇開始とともに天井につるされていた衣服が下に落ち、俳優はそれを着る。これから「ハムレット」を演じるのだという演じる行為を明確に示すという演出だろう。
 
観ていると、殆どシェークスピアの「ハムレット」の台詞を使いながらも、随所に新たな試みが見られた。冒頭で流れるのは「玉音放送」であり、その声を「王」の声とし、ビデオカメラで写したその姿をプロジェクターで映しだすのだが、わざとぼやけるようにしてあって何かが映っているのにその「王」の姿は見えないように映している演出が素晴らしい。
 
この劇のハムレットが「ひここもり」系でしかもこれみよがしに太った俳優が演じたり、かれが言う筈の有名な台詞「生きるべきか、死ぬべきか・・・」を決闘するレアティーズに言わせたりするなど、随所に演出家の意気込みが感じられた。
 
帰ってから本棚から『ハムレット・マシーン』を探し出し読むと、殆どの部分が激しい詩のような言葉のモノローグからなっており、演劇化は非常に困難だと分かった。それだけに何とかこの「テキスト自体」を演劇にしてほしかった。次回に期待したい。

しかし改めて思う。部分的にしか見られなかったとはいえ、どうしてシェークスピアの生み出した言葉は何度聞いてもこちらの胸に響くのだろうと。
3月5日に「アトリエ劇研」で観た「八月、鳩は還るか」は、場面設定が現代である。ある田舎で家族を捨てた人たちが農業をしながら「八月会」とよばれる共同体で生活をしている。そこを、同棲しており近く結婚する予定のカップルの雑誌記者が取材のために訪れる。「家族」を逃れたひとたちと「家族」をつくろうとしている人たちが出会うという設定は見事である。

前半はその「八月会」に住む住民を結び付けている「ケン君」と呼ばれている、父親を殺してしまいやがて成長して30歳になったとき子供を事故で亡くしてしまったという実在の(劇中での)人物を、住民が演じる。

正直言ってこの前半は退屈だったが、劇の筋の上で必要というより十数名もの俳優をそれぞれまんべんなく演じさせるために脚本は書かれたのではないかとさえ思った。前にこのブログで紹介したワークショップで、家族と住んでいるのに「知らない人たちと住んでいます」と書く認知症にかかった自分の祖母の思い出を演じたこの劇団のメンバーがその逸話をそっくりそのままこの劇の中で演じていたので驚いた。

しかし後半になり劇は俄然、緊張感が高まる。その「八月会」は宗教団体ではないし、強力な権力を持った個人もいないのだが、全員が持ち回りで金庫のカギを持ち意思決定は全員で話し合って決めるという共同体だという。それに対し記者の男はその集団を結び付けている「ケン君」という男が実在しているのかという疑いを述べ、その家族を捨てて、人との別の結びつきを求めている集団を「お互いの傷をなめ合って生きている」と批判する。「家族」を捨て「他人とのとの繋がりを求めて共同生活をする」というテーマは昨年、このブログでも取り上げた映画「愛のむきだし」や村上春樹の『1Q84』で重要なテーマであった。

時代的には一見無関係のように見える二つの劇もそれが演じられたのが現在だという点から考えると興味深い。ハイナー・ミュラーはスターリン体制の崩壊と東西ドイツの統一を重ね合わせて書いたと言われるが、そこに描かれる「ハムレット」はどんなに変形されようと、「子」の「父親」と「母親」に対する家族劇の骨格を残しており、それはこの「八月・・・」で扱われている「父殺し」「家族の否定」というテーマと重なる。

「ハムレット」の王国という強靭な枠組みを嵌められた家族に比べて、「八月会」のメンバーが抜け出し、記者のカップルが目指す「家庭」が、床に白墨で描かれる家に象徴されるように、どれほどはかなくもろいものだとしてもそのオイディプスの関係は変わらないであろう。ひとりでは生きるのが困難でありながら「家族」として生きることも不可能であるとしたなら、人はどのような結びつきで他人と生きていけるのであろうか?それぞれの演出をした二人はこのテーマを更にどのように深めていくのだろうか。期待したい。(番場 寛) 

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