現代において何が演劇を可能にしているのだろうか?(三浦基演出・地点「―ところでアルト―さん、」)

 現在京都で展開している演劇とダンスのフェスティバル「京都国際舞台芸術祭KYOTO EXPERIMENT」の催しに通っている。仕事の関係で7月に行われているアヴィニョン世界演劇祭に行けなくなって久しいが、このフェスティバルには実際にアヴィニョンで上演されたものも上演されるし、他のその水準に達している作品を京都で見られる幸運に感謝している。

11月4日に三浦基演出の「-ところでアルト―さん、」を観た。正面にスクリーンを据えた四角い枠のある舞台の内側は反射している。予想通り、それは水を張ったものであり、役者は長靴をはいたままそこに入ったり、出て縁を歩いたりしながら台詞を言う。アルト―については、すでにこの京都芸術センターで『神の裁きと決裂するために』を朗読劇で演じていたが、今回はアルト―の何種類かのテキストをコラージュして役者が殆どの部分をモノローグで語るというものだ。ただそのモノローグの必然性を高めるためにマイクを持ってそれに向かって発声するときとそこから外れて地声で発声するときと変化をつけることによってリアリティを生み出していた。

普通の発声とは違った風に音節を切ったり、イントネーションを意識的に変えたりする発声方法は三浦の演出ではお馴染みのもので、言語をあらたなオブジェのように観客に提示することで、「異化」を強いる方法なのだが、「地点」の観客にとっては今では懐かしいとさえ感じられたが、今回は自分の知る限りにおいて全く新しい発声方法が披露された。それは言語ではない発声、オノマトペに似ているが現実にそれの指し示すものがない音を発生し、しかもそれを通常の単語をも交えて発声する場面が衝撃的であった。

またアルト―の手紙を少女が朗読していたと観客が思うと実はそれは白紙であり、しかもそれを手旗信号のように振りながら語る(いつも思うのだが、なぜか彼女の顔は奈良美智の絵に出てくる少女を思わせる)など、モノローグにいかに厚みと深さをもたせるかの工夫が成功していたように思う。すばらしい舞台だったと思うが、ポスト・トークのときに質問したのだが、残る疑問は、どのようにして劇が終わるのかと考えたとき、劇全体では物語的時間を否定し、テキストのコラージュとして製作されたこの作品は劇の始まりから終わりに至った時、どのような時の経過という充実感を観客に与えることが可能だったのかという点である。三浦自身はこの終わり方には満足しているという答えであった。

ポスト・トークで三浦と対談した「Port B」主催の高山明は、現代においていかにリアリティを生み出すかに苦心した結果舞台から離れ、都市の真ん中でインスタレーション演劇を行うという方法に行き着いたことを語った。その話でかつてグロストフスキーが役者だけを合宿させ、観客のいない劇を上演させた例を紹介し、それでも観客は必要であり、観客をつくるような仕組みを創ればいいのだと考えるに至ったと語った。

そのときぼくが発言したことを今整理してみれば以下のようになる。
演劇を演劇として成立させるのは「観客」であり、演劇とは「観客」をつくる仕組みである。では「観客」とは何か。それは目の前にいる人を「役者」として観る人のことであり、目の前にいるその人をその人であると同時に別な人と見る視点、つまり二重なもの(double)として見る視点を持った人のことである。

ところでこのフェスティバルの関連イベントとして11月1日に行われた森山直人と森達也の「テレビが終わる未来の『劇場』」というライブトークを聴いたのだが、そこではますますデジタル化される現代においていかにアナログなものが価値を維持し、生き残ることが可能なのかという問題が情報の受容者の主体性との関係において語られたように思う。

スクリーンに映し出されるクラゲや海の光景、機械による音声処理というデジタル機器を駆使すると同時に、それと拮抗させる形で、分節言語ではない「人間の発声」という最もアナログなもののその可能性を極限まで追求した三浦基演出の今回の劇を見ていると、まだまだ演劇は可能なのだと思えてくる。(2010年11月6日。番場 寛)

 

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