これは「少女」なのだろうか?(マノエル・デ・オリヴェイラ「ブロンド少女は過激に美しく」)

 今年104歳になるのに現役で映画を取り続けているオリヴェイラの作品はオレンジがかった光のあたる独特の映像が印象的だ。今回のこの作品は100歳のときの作品だというだけで感嘆する。
 
タイトルからしてこれは男をその魅力でとりこにし、やがて破滅へと導くいわゆる「宿命の女、ファムファタルfemme fatale」の映画だと観客は思い、はたして映画の冒頭から、男が列車で偶然隣りに乗り合わせた女性に自分の身の内を語り始めるが、それはある若い女性に一目ぼれして、苦労の末結婚するところまでこぎつけたのに破滅するという物語である。映画の大半はその男の物語が、そのときの時間で進行する。
 
伯父の家に下宿し、その2階で事務をしている独身の若い男マカリオ(少しベッカム選手に似ている)が向かいの家の窓辺に立つ娘を一目見たとき恋に陥る。それは十分説得力を持つほどの演出がなされている。娘はそこに立つとき必ず中国製の、レースで縁が飾られた団扇で顔の一部を隠すし、窓には薄く透けるカーテンがかかっており、マカリオは普段はその薄い布越しに娘の姿を見、気配を感じる。
 
マカリオはルイザという名のその娘のせいで2度不幸のどん底に突き落とされる。最初は結婚したいと伯父に申し出たとき、結婚するならここを出て行けと言われ、仕事と住まいを失う。友人のはからいで見つけた仕事で稼いだお金でようやくルイザとの結婚の許可をその母親から得るところまでこぎつけたのに、友人の保証人になりその友人が人妻と駆け落ちし逃走してしまったため、また無一文になってしまう。
 
絶体絶命の時になぜか彼を追い出していた伯父が彼の誠実さを評価し仕事に復帰することと結婚を許可する。しかし一緒に婚約指輪を買いに行った店でルイザは、マリオの知らなかったとんでもない正体を現し、彼は「消えてしまえ」と激怒し別れるのである。
 
これからどうなるのだろう。きっとそれでもマカリオはその娘の魅力に抗うことはできず破滅の道を突き進むのだろうかと観客が思い始めたところであっけなく映画は終わる。これからドラマが始まるのにと思うところでオリヴェイラはなぜこの映画を終えたのだろう? ぼくは考える。ここまでで彼の狙ったものは十分に表現しえたと思ったからなのだろう。
 
裏切られた友人の借金を肩代わりしたためまた一文無しになったマカリオはもういちど遠く離れたところに行くという仕事をしないかと、前回と同じ依頼をされたとき「また戻る? すべてをやり直す?…」と聞き返す。
 
つまり「反復」ということを意識している台詞を登場人物自身が発するが、これは「ファムファタル」の物語の典型そのものの「反復」をも表しているかのようであり、これ以降の物語は必要ないと思ったからなのではないか?
  
ルイザがファムファタルとして描かれていることは間違いないが、ポルトガル語の原題のなかの言葉を本当に「少女」と訳すことには賛成し難い。

「少女」を「人形」と「娼婦」と同じものとみなす寺山修司の指摘する「娼婦性」とでも呼べる性質をルイザも持っていることは確かである。 魅惑的な団扇で顔を隠すしぐさはもちろんのこと初めてマカリオに抱きつくとき、左足だけを>のように曲げてあげるコケットリー(テレビのスーツのCMである女優がやるあの仕草である)をカメラは強調していた。 しかしファムファタルではあっても彼女を「少女」とは呼びたくないのは何かが欠けているからだ。それは何だろうか?

「少女」とは「時間」を「空間化」した意識によってこそ存在しえるものなのに、この映画のルイザにはそれがないと思う。その「時間」とは「隔たり、距離」の感覚によってのみ成立するものである。この映画の主人公のマカリオは貧しいだけでなく、若くてそのままでルイザにふさわしい年齢である。そこには小説『ロリータ』において「男がニンフェットの呪縛を受けるには、少女と男との間に、数年、私に言わせれば最低十年、一般的には三十年から四十年の年齢の開きが必要で、…」と語り手が語る「年齢の隔たり」が、この映画の二人にはない。 

この映画を見ていてそれでもやはりすごいと思わざるを得ないのは、演技とはいえ可愛らしく映っていた「少女」が、最後にまるで化け物のように見える姿として演出されていたからだ。それは激怒したマカリオに「消えろ」と言われて自分の部屋に帰ったルイザが無表情でソファに座る姿である。それまでのコケットリーは失せ、スカートを穿いた脚を大股開きにして座るのだが、その肢体はまるでカマキリのようで、ファムファタルとしての本性、隠された神秘でありながら、ぱっくりと男を飲み込み、破滅へと導く股間の深淵を露わにした姿に見える。(2011年1月14日。番場 寛)

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