「Responsibility(責任) とは Response(応答)できる Ability(能力)なのだ」―ダンス、ダンス、ダンス(3)

 表題の言葉は「京都国際ダンスワークショップフェスティバル」の参加者が成果を披露するショーイング後に、居酒屋で行われた飲み会で聞いた言葉で、ワークショップの講師の一人が言った言葉だそうだ。

「普通、responsibility(責任)というと何か重苦しい感じがするが、responseするabilityと聞くと本当に素晴らしいと思う」とこのフェスティバルを主催したひとりの森 裕子さんが言った。

実はその前日の飲み会にも参加して気を良くして飲み過ぎてしまったのに次の日も参加してしまったのは、普段の生活ではおそらく絶対に会わないだろう人たち(大部分が若者、女性が多い)との会話が楽しかったからだ。年がいっていることで気後れするぼくを気にすることなく、話かけてくれる。他の参加者を見ても互いに料理を分けあったり、飲み物を回したりする協力の動作が見ていて心地いい。

今年は大学の担当の授業で唯一専門の一部を披露できる大学院の「地域文化研究」という授業の受講生が今年はいなくて、気落ちしていたのだが、昔、岩下徹さんのダンスのワークショップで一緒だった青年がぼくを見つけて、J.ラカンのことを真剣にたずねるので驚く。

また別の女性だったと思うが、舞踏の講師の室伏鴻さんから、J.ドゥルーズの話を聞いたのだが、と大学では尋ねられないことを酒の席で聞かれてすっかり嬉しくなってしまった。踊り続けるためには身体について問い続けることが必要なせいだろうか? 

レッスン後のミーティングやショーイングの後に積極的に発言したせいもあるのだろうが、ぼくにも自ら話しかけ、名刺までくれる若いダンサーがいたことにも感動してしまった。何日間一緒のクラスだったメンバーもいるだろうが、それでも殆どがそれまで初対面の関係だったはずだ。どうしてこの若者たちは気持ちがよくてコミュニケーション能力があるのだろうと考えて思ったのが、この表題の言葉だ。

クルト・コーゲル(ドイツ)のレッスンでは、部屋をいっせいに歩き回り、すれ違いざまに視線が合った人とおたがいに「こんにちは・・・です」と言いながら握手を交わすことから始まった。部屋全体の空間、他人との距離を常に意識しながら、他人と連動し、空間と動きを創り上げていく。それは体が接触していてもしていなくても同じである。

それが心地よいのだろう。格闘技のように相手を打ち負かすのでもなければ、性のまじわりのようにそれなりの重苦しさをともなう行為でもない。服従させることもさせられることもなく、ただ過ぎて行く時間のなかで他人と関係することで自らの身体がすみずみまで目覚めていくのを感じる。

客を前にして決まった振り付けに従いそれなりの水準を目ざして踊るのはそれなりの練習と苦しみを伴うことは象像できるが、まったくの他人と利害関係なく、一個の身体と身体としてだけ関係を創り上げていく機会は日常において他にあるのだろうか?

ショーイング後のミーティングを終え、本当に今回のフェスティバルの最後のときに森さんが「さあ今日までは保護された空間で過ごしてきたのですが、明日からが本番なのですよ、みなさん」と締めくくっていた。震災の影響でフェスティバル事態が開催できるのだろうか? 開催しても参加者が来てくれるのだろうか? そうした危惧を乗り越えての開催でしかも16年目にして最高の参加者だったとのこと、感余って泣き出しそうにも見えた。

かつて大江健三郎がJ-P.サルトルの現実参加の姿勢を引き合いに出して発した「餓えて死ぬ子の前で文学は可能か?」という問いは、今度の震災においてあらゆる人間に投げかけられた問いと重なる。このいまなお被災で苦しんでいる多くの人がいる状況のなかでダンスは可能なのか? 多くの人が瓦礫処理やボランティアで働いているときに踊っていていいのだろうか? そうした問いを背景にして行われたこのコンテンポラリーダンスのワークショップだったわけだが、他人であれ、人はその他人にresponse(応答)が可能だということ(ability)。少なくとも今回のフェスティバルはそれを教えてくれたように思える。(2011年5月13日。番場 寛)

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