これは本当のガールズ・トークなのだろうか?-岡崎芸術座「街などない」(元・立誠小学校 職員室にて)

 忙しい合間をぬってKYOTO EXPERIMENT 2011の舞台作品を見ている。前回紹介した作品に続いて、地点の『かもめ』、白井剛振り付け、出演作品の『静物画』を観た。どちらもすばらしい作品だと思うが、悲しいのはすでに経験した感動を再び経験することはできないということで、驚きはなく、人間は何て強欲で、「もっと、もっと」と新たなる驚きと刺激を求めてしまう生き物なのだろうとあきれてしまう。

そんな中ふとしたきっかけで岡崎芸術座という劇団の『街などない』という作品を観たのは、昨年フェスティバル・トーキョーという演劇祭で東京に行った時、観たい作品の合間に時間が空いてしまいしかたなく観た『古いクーラー』という、エネルギーに満ちた作品が最近久しく感じてなかった驚きを感じたからであった。舞台に出ている登場人物が順に各自が台詞で舞台を創り上げていくという演出だったように記憶している。

今回の作品は終わった後のトークで、今回の企画の責任者である杉原邦生がいきなり「観ていて決して充実感は覚えないのに75分観てしまうこの感じは一体何なのだろう。舞台衣装もまるで学校の学芸会みたいに本物らしさがまるでないのに観てしまうのはなぜだろう」と笑いながら語った言葉が表していたように、本当に不思議な作品だった。

『街などない』というタイトルにあたるらしき部分は、出だしの日本の国土の地理と人口について触れた説明の部分くらいで、劇の大部分を占めているのは正面を向いて椅子に座った4人の若い女性(女の子)同士の会話であり、しかも最初から最後まで彼女たちの性生活についての話で、俗にいう「ガールズ・トーク」なのだ。

そこに『リヤ王』や『マハバーラタ』『女中たち』『アガヴァッド・ギーター』など古典の台詞がちりばめられるものだから余計何が何だがわからない展開になっている、ように感じたが、今振り返って改めて構成を考えてみると、いわゆる筋はなくても極めて計算つくされた構成になっていたことが分かる。

「何回?」「どんな風に?」「気持ちいい?」等、男と同棲しているという女3人と初体験をするという女で交わされる言動はあからさまで、笑いながらも呆れてしまうのだが、これらを聞いていてふと疑問がわいた。これらは神里雄大という男性によって書かれた脚本だが、これらは誇張されている部分を割り引いたとしても、ひょっとして本当の「ガールズ・トーク」とはまったく違ったものなのではないかという疑問である。
まるでオヤジが下ネタを話しているようなのだ。

と思ったのは、実は前にある女性の小説家の描く女性の登場人物の性描写を読んだ時に、自分はそれまで男性の小説家の描いた性描写しか読んでいなかったことに気づいて驚いた経験があるからだ。これは本当のガールズ・トークなのかと、隣りに座っていた若い観客の女性二人に尋ねようかと思ったくらいである。

また、ふと別なことも思った。この劇の女性たちのように自分の相手との性行為についてどんなに語ったとしても、結局彼女たちと相手との関係は分からない。このようなこともJ.ラカンが繰り返して言っている「性関係はない」ということなのだろうか。ラカンのこの言葉は性における人と人との関係は書き表すことのできないものだというように普通理解されているが、この劇の会話を聴いていると改めてそう思う。

出版されたばかりのseuil版のラカンの『セミネールXIX巻… ou pire (…あるいはもっと悪く)』を読んでいたら「動物の性交の像が、性関係というものがどういうものであるかを表す十分なモデルだと、わたしたちに思われるとしても、それは同時に、ある欲求un besoinと見なされるものなのです」と書かれていた。

一体ある人とある人に「関係がある」とは、どういうことなのだろうか? この劇は「街などない」どころか、終始「…はない」ということを巡って展開しているように思える。最初4人の女性たちが客席に対し正面を向いたままの姿勢で移動して不自然だと感じたが、劇の最後のほうで分かるのだが、彼女たちの着ている学芸会のような安っぽい服装がすべて正面しかなく、後ろを向くとショートパンツとTシャツ姿が現われるようになっていたが、それも計算づくのことであろう。

いわゆる筋がなく、トークだけで成り立ち、時どき混ざる格調高い台詞も、安っぽい舞台衣装と同じく、劇を演じていることを強く意識させる演出になっている。内容の「ない」、それだけに「語る行為」のみによって舞台が展開していくという「何てくだらないんだろう」と思いながらも75分、ある種の不思議な緊張を伴い最後まで観てしまったこの作品、ひょっとして、ぼくはようやくexperimentという名にふさわしい作品に出合ったのだろうか?(2011年10月5日。番場 寛)

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