テレビドラマの記号論 ―「家政婦のミタ」「カレ、夫、男友達」「謎ときはディナーの後で」

それまでは、映画に比べて密度の薄さに耐えられなくてテレビドラマは見なかったのに、続けざまにしかも終わりの3回くらいになって見初めて熱中してしまったドラマがすべて終わった。

今年のテーマであり、大谷大学の文芸奨励賞のテーマでもあった「絆」と同じく、今回終わったドラマでも「家族の絆」を扱ったものが目立った。NHKの「カレ、夫、男友達」では別れた夫がその離婚の原因となった若い女性の出産を助け、子どもたちも父親の新しい相手の出産を祝う様が感動的であった。元夫と相手の女性を見つめる元妻(高畑淳子)のまなざしには、関係が変わっても「愛」とでもなづけるしかない感情が現われている。

幾つか見たドラマの中でも「家政婦のミタ」は前からの評判通り、脚本、演出、俳優の演技、装置、メイクのどれをとっても本当に素晴らしいのだが、なぜあれほど感動を与えるドラマになっているのか記号論的に考えてみた。

まずタイトルである。あきらかに前に人気のあった「家政婦は見た」とダブルタイトルでありながら、それ以上にドラマの展開を象徴的に表している命名であった。夫が浮気して、別れて欲しいと言われたことに絶望した妻が自殺し、残された家族のために紹介所から派遣されたロボットのように無表情な家政婦(松嶋奈々子)の名が「三田灯(みたあかり)」だと聞いた時、ドラマの展開とともにその命名の見事さに感嘆した。

つまりそれは「見た明かり」であり、妻と母親を失って暗く沈んでいる家族にとってのかすかな希望を予感させる「明かり」であると同時に、自身の義理の弟の嫉妬により家を放火され夫と息子を失ったトラウマで、以後人間的な感情を押し殺してロボットのようになってしまった主人公が夫と子どもが巻き込まれるのを見たときの、まるで地獄の「炎」であり、派遣先の家庭で問題が起こるたびに整理したいものを燃やそうとタンクから振り撒こうとする「灯油」の「灯」とも繋がっているように思われる。

そう思っていたら。結果的に家族を再生させ笑顔を取り戻させ、「笑顔が見たい」という家族の願いにも答えることができ、別れを告げ去っていった後、彼女の誕生日が12月25日であることと、家族が本当に欲しかったものを与えてくれたという意味で彼女こそサンタさんなんだという子どもの台詞に驚いた。つまり「三田」は「サンタ」とも読めるというのだ。

最終回で、最初子どもたちの母親になることを引き受けた時、家族みんなに「家政婦」のときの態度とは激変したのは、自身が幸せになることの罪悪感だったのか、父親に恋してしまった、亡くした母親の妹(相部沙希)がやけになって愛のない結婚をすることで彼を忘れようとしていることを思いとどまらせ、その家族にとって必要な彼女をその家族にもどそうとしてあえて自分が悪の役を引き受けようとしたのかは視聴者の判断にまかせようとしたつくりになっている。

その家庭に留まれば、自分は幸せになれるのに敢えてそこを出て行く彼女は、クリスマスの日が誕生日だということもあいまって、サンタというよりはまるで人間の原罪を背負って十字架に架けられたイエスをも連想させても嘘でないのは、自分は夫と子を亡くした十字架を背負っていかなくてはならないのですと彼女自身が言っていることからも分かる。

三田を演じる松島の無表情の顔から流される涙と最終回に一回だけ見せる頬笑み、一家そろっての家族めいめいから次々と出される願いの言葉に対し返されるただひと言の「承知しました」ということばはすべての人間の願いをかなえようとする「誰か」の言葉だ。

ここまで書いて思い出した。二つのドラマに比べれば、見え透いたギャグが目ざわりだったものの、櫻井翔演じる影山という執事も、気まぐれで思慮が足りないことをいつも指摘されている美しい令嬢(北川恵子)に対し、いつも「かしこまりました」と答えており、ドラマの最終回でふたりともサンタクロースに扮していたのは、単に季節的な偶然ではないようにも思えてくる。

その執事が最後に言う。「もう言葉など必要なかったのでございましょう。家族、恋人、友人、仲間。人と人との結びつきはすべて一緒でございます。目に見えない何かで繋がっている。それがもっとも強い絆なのだということをお忘れなきよう」

このドラマではこのように「言葉に出してしまった」ものを言葉に出さないことで却って強い感動を与えることに成功したのが「家政婦のミタ」なのだろう。

ところでぼくの今年の(「今年も」というべきか知らないが)24日は、憂鬱である。何年かぶりの医者の検査の予約を入れているからだ。多分その日はアルコールを飲むことはできないであろう。「クリスマスにはクルシミマス」などと冗談でよく言うのだが、そのアナグラムがどうぞ外れますように!(2011年2月22日。番場 寛)

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