日帰りで静岡で演劇を観てきた(「ふじのくに 世界演劇祭2012」)

ふとしたことでフランスでも日本でも何度か観たことのある演出家オリヴィエ・ピィOlivier PYが静岡で『<完全版>ロミオとジュリエット』を上演するという情報を得て、観ようかどうしようか迷ったのは、『ロミオとジュリエット』をわざわざ静岡まで行って観なくてもという思いもしたからだ。

ネットで演劇祭のスケジュールを見ると6月10日はそれを観た後、夜には野外劇場で宮城聡演出の『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』も観ることが可能だ。列車の時刻表を見ると時間通り進行すれば最終の「ひかり」でその日のうちに京都に戻ることができる。それで日曜日に静岡に出かけた。

どういう訳で、「完全版」と銘打ったのか分からなかったが、とにかくびっくりしたのはジュリエットを演じる女優が若いのだが、肉体的にも発声にしても、完全に成熟した女性でありいままでの映画や他の劇で抱いていたイメージが覆されたことだ。ピィが原作に忠実にフランス語に訳し直したと伝えられる台詞は、原作と同じ筈なのに彼女の口から出る台詞は「恋」というより「欲望」と行った方がふさわしいような強さと、ヒステリックに両手を広げて動かす様など、最後まで感情移入できなかった。

しかしピアノ一台で音楽を担当し、移動式の階段のついた二階建ての箱は、バルコニーにも墓場にもなったり、そこにチョークで手書きで言葉を書く黒板になったり(例えば「La mort n’existe pas. 死というものは存在しない」などと)随所に工夫が見られた。

しかし何より、互いに憎み合う家に生まれたが故の悲恋は、個人的には感情移入しにくい俳優によって演じられていてもそれでも強く胸を打ったのは、シェークスピアの言葉の素晴らしさのせいだ。「ロミオなぜあなたはロミオなの?・・・薔薇はたとえ違う名だとしてもその香しい匂いを放つ」鏤められた宝石のような言葉はそれが強く発せられる限り永遠の輝きを放つだろう。

それが演じられた静岡芸術劇場で食事をしたあとシャトルバスで15分ほどの舞台芸術公演に向かう。町中から新緑の山を登っていく。バスを降りて野外劇場「有度」にぞろぞろ人が歩く様を見ていて、まるで「巡礼」のようだと思った。ぼくの座席につける順番は215番だったがおそらく400人から500人くらいの観客がいたのであろう。建物入り口を入ると座席の並ぶ階段状の斜面になっており正面に舞台があり囲いがあるだけで木々に囲まれている。昼間の観劇用の日よけはついているが、屋根はなく、空が見える。

『マハーバラータ~ナラ王の冒険~』は、強烈な和太鼓やドラムの音に合わせて踊る、面をつけた役者と顔を出した主人公たち、それにすわったまま文楽のように台詞だけ言う語り手とで進行した。個人的な思い出も一挙に蘇った。それはその劇を演じている劇団SPACは、ぼくがひょんなことでオヤジのダンスグループ「ロスホコス」の一員として昨年鳥取県の「鳥の劇場」で踊ったとき、同じく招待された劇団であり、彼らが『王女メディア』を演じたとき楽屋が隣だったからだ。

今回も主役の美加理さんはまるで動く人形のように美しかったが、彼女が台詞を言うのを初めて聞いた。(昨年「鳥の演劇祭」のパーティで彼女と直に話すことができたことが信じられない気がする。)この劇については劇評を募集していることを知り、今書いている途中なのでここでは省略する。

暗くなり、ライトが舞台に当てられると周りを囲っている木々の葉にも光が当たる。心地よい夜風は少し冷たくも感じられる。古代ギリシアの人たちもこんな感じで劇を観ていたのだろうかなどとも思う。

2時間があっという間に過ぎシャトルバスに乗ったのだが、バスが静岡駅についたとき新幹線の発車までは5分くらいしかなかった。東京の観客には渋谷から千円で乗れるシャトルバスが出ているのに関西方面の客には配慮がなされていないようだ。

あらためて思うことは、演劇は不便を感じても巡礼のようにそれを乗り越えて観に行くところに価値があるのかもしれないということだ。「鳥の演劇祭」が行われる「鳥の劇場」は鳥取県鹿野町という、行くのにかなり時間のかかるところ位置している。静岡芸術劇場の建物の立派さと比較するとその違いに驚くが、交通に不便な地方で本当に評価に値する文化を発信しているという点では負けていないと思う。両劇場のこれからのいっそうの活動を祈るばかりである。(2012年6月14日。番場 寛)

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