大好きなもので溢れた学会―第60回日本病跡学会総会に参加して―

ようやく夏休みだ。皆さん、特に学生の皆さんはどう過ごしているだろうか?
 ふた月ほど前だろうか、一人の女子学生が研究室をたずねてきて、言った。「わたしの学生生活の寿命はあとわずかだと思うとどう過ごそうか、考えてしまうんです」と。

 そうなのだ。学生だけではない、ぼくだって同じだ。大学教員という資格で学会で発表できる機会には限りがある。数年前から、自分が熱中していることで、学会で発表できるテーマがあればすべてやってしまおうと思うようになった。

従来から、フランスの精神分析家のジャック・ラカンの理論を文学作品や舞台・映像作品、さらには芸術作品との関わり合いの中で解読することを目差している。

数年前から入会している日本病跡学会が、そうした自分の関心にあまりにも合致していることに、ことあるごとに驚く。前に、日本では、六本木ヒルズに「ママン」と呼ばれる大きな蜘蛛の彫刻があることで知られているルイーズ・ブルジョワという彫刻家について2回、発表し、論文を書かせてもらったことがある。

今年は、関西医科大学精神神経科の主催で、大阪国際会議場で7月27日、28日に行われたこの学会の総会に、2日間とも、早朝に起き、通った。ぼくは、28日に「安部公房における『夢の論理』と『論理の夢』」という題で研究発表をした。彼の『笑う月』という作品集に収められている「阿波環状線の夢」という作品と、『箱男』やのちの『仔象は死んだ』という作品集に収められている「贋魚」のエピソードにおける「夢」のテーマを論じたものだ。

以下に、今回の総会で驚いた発表のいくつかを書いてみよう。初日の「なぜ賀川豊彦は排除されたのか―信仰と科学のはざまで」という発表で驚いたのは、賀川豊彦というノーベル賞に5度もノミネートされていた世界的に有名な人について自分が殆ど何も知らなかったことと、それを発表したのは香山リカさんで、本名で発表されていたことだ。

発表を聴いていても、それほどの偉人が現在は一般には知られていないのかという疑問は深まったということ、すでにあまりに有名になっており、精力的に著作を出し続けている香山さんが、アカデミックな場での発表も続けておられることに感心した。

名前と言えば、発表をペンネームで行うことにこだわっている志紀島啓氏は親しいのだが彼の「ドゥルーズ、最も潜在的な自閉症」という発表には、ドゥルーズの新たな読みを教えられた。

聴いていて未だに信じられないのは、「物理学の天才シュレーディンガーの創造性とエロス」という生田孝氏の発表で、説明されたシュレーディンガーが数多くの恋愛を繰り返したのだが、同僚である、不倫の相手となった女性の夫たちが彼を非難しなければ、別れた女性たちの一人として彼を恨んでいなかったと報告されたことである。これは本当に恋愛だったのだろうかと思った。

文学では斎藤慎之介氏の「吉行淳之介の病跡―シゾイド・パーソナリティの治療の場としての文学」を聴きながら、安部公房や寺山修司に夢中になっていた時期に、同時に吉行の小説を読んで感動していた時期のことを思い出した。男の主人公が男性と関係を持ったときの「彼は皮肉なことに心が女性になればなるほど体は男性になるのだった」というような文章が、発表とは別に突如蘇ったことに自分で驚いた。

今回は主催者側の意向が反映されたのだろうが、絵画についての発表が目立った。ゴッホ、カラヴァッジオ、ゴヤは改めてその美しさを再認識させられたが、いままでに観た絵画の中でも忘れられない肉体が引きつっているかのような強烈な印象を残した画家についての、「フランシス・ベーコンの離人症的リアリズム」(大崎晴地氏)という発表も聴いていて記憶が蘇った。

その他、前回に続いてモーリス・ブランショの「終わりなき対話」についての「臨床における対話(entretien)についてⅡ「間(entre)」にあるものは何か?」(佐藤晋爾氏)や、映画を扱ったジョン・カサヴェデス―しに演出法と人生―」(小林陵氏)など、ぼくが好きと言うより、どれも発表者がその対象にいかに入れ込んでいるかが伝わってくる発表であった。

河合俊雄氏を中心としたメンバーのユングの「赤の書」をめぐるシンポジウムや、ラカンの「ボロメオの結び目」理論を使った、中沢新一氏の「南方熊楠の病跡」という発表が面白かったのは言うまでもないが、「能「鵺」にみる投影同一視」(川崎博氏)のように、程度の度合いの差こそあれ、自分が深い興味を抱いている対象が次から次へと論じられていることにただ驚き、感嘆する二日間であった。この学会がもっと世に知られ、一般の人もより参加しやすい学会になればもっといいのにと思った。

ところで8月3,4,5日と「大谷大学オープンキャンパス」が開かれます。ぼくは3日の午前中にブースで待っていますが、ショバ先生のインド文化の模擬授業やハウザー先生の「嵐が丘」についての模擬授業、鈴木先生の「東日本大震災の大津波の被害調査」についての模擬授業もあります。高校生の皆さん、待ってるよ!
(2013年8月2日。番場 寛)

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