私たちは所有物に所有されているのだろうか? ―若い世代の安部公房作品演出『永久運動』を観て―

 本当にラッキーだった。毎号送っていただいているネット配信の月刊『もぐら通信』という安部公房の熱烈なファン雑誌(ネットで誰でもアクセスできるそうです)、の11号の巻頭の頁を見ていたら、京都(take twoというギャラリー)で安部の「永久運動」という劇が上演されると知らせが載っており、8月3日、オープンキャンパスの帰りに観た。

 

小さなギャラリーを使った客席は20数名程度の小さな舞台だが、本当にうまくできていた。中央に置かれた大きなテーブル状の四角形の物体に掛けられた白い布の覆いをとると、現れたのはパソコンの廃品や、LEDライトや配線などを寄せ集めて周りに貼り付けた明らかに何らかの機械を連想させる物体であった。

 

常に体を細かく痙攣させ、左腕にタットゥーのようにインクで細かい文字のようなものを描いた男が機械の説明をするが、それは彼によって発明された人造超人(人工頭脳)であるが、機械自身の説明によれば、それはその機械によって発明家が「発明させられた」のだと言うことが分かり、発明家もそれに同意する。

 

驚いたのは最初に観客に気張られた配布物に、番号を書いた小さな紙切れが入っており、劇中で機械が抽選をし、観客席から当選した3人を選び出すのだ。そこで選ばれて舞台に登場したのが、若い学生とその恋人の女、それと会社の人事課長である。

 

その3人がつぎつぎと機械に質問し、答える様はまるで現代のスマートフォンに向かって音声で質問し、それに機械が答える様を予見していたように思えるし、同じく何でも分からないことがあるとすぐに検索してしまう現代人の姿そのものだとも思う。

 

就職に困っている学生にその課長は賄賂をよこせば就職の世話をしてやると匂わせ、課長は若い女を金持ちだということを匂わせ誘惑する。女は金をねだる。若い男は女に金がないと無心する。

 

つまりここにひとつの円環運動が成立し、舞台では3人がぐるぐると一緒に回る場面がある。これは金が循環している資本主義社会の戯画だと誰でも分かる。

 

考えさせられたのは何度か繰り返される台詞で「所有者は所有に所有されることによってのみ所有を所有する」というものである。発明家は人工頭脳を人工頭脳によって発明させられることによって、発明したことになる、という意味のことを一般的法則まで拡張したのだろうかとも考えたがいまひとつ分からない。

 

家に帰ってから探すと『安倍公房全集06(前回09と間違えており、ご指摘がありました)』に入っている1956年の作品だということが分かった。箱に人が二人に入ってそれぞれが両側から片腕を出す装置も含め、すべて安部の戯曲に極めて忠実に演じられていたことが分かった。

 

しかし安部公房の他の作品を振り返ってみれば、「自分の使った機械に支配される人間」といったありきたりのテーマではなく、「主体と客体の転倒」というテーマが繰り返されていることに気づく。

 

探し求める探偵が、最後には失踪した男に変わってしまう『燃えつきた地図』、夢の中出だが、自分で持って運んでいる鞄に実際は導かれ、それを運ばされて歩く『鞄』など随所に見られるテーマである。

 

『箱男』で繰り返されるのも「見る」「見られる」という主客の転換であった。この作品では「所有する」と「所有される」の転換として作品かされている。『鞄』の主人公が、自分の持っている鞄に実際は導かれているのに「かつてないほど自由だった」と感じるように、所有しているつもりの携帯や恋人その他に所有されているわれわれという現状をこんなにも分かりやすく描き、それを「永久運動」と名づけた作品が1956年に発表されていたことには驚くばかりだ。

 

謎の台詞に言葉を補って「所有者は所有(対象)に所有されることによってのみ所有(対象を)所有する」と変えれば理解しやすいこと分かる。安部がそうしなかったのは、観客の耳に謎という形で印象的に届けたいという意向と、その主客の転換を強調したかったためではないかと考える。

 

演出家は京都精華大学の大学院生、松川華子さんだと配布された紙には書かれている。これだけの空間でこれだけの充実した舞台を造り上げえたのは、安部の戯曲の素晴らしさだけではなく、これを舞台化した彼女の演出の素晴らしさにも負っていることは間違いない。若い世代に確実に安部公房の遺産が引き継がれていることに幸せな気持ちになった。(2013年8月7日。番場 寛)

 

 

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