欠如が欠けている(?)-She She pop『シュプラーデン(引き出し)』、Baobab『家庭的1.2.3』を観て-

10月19日はとても充実した一日であった。入試業務の後、急いで京都芸術センターに行き、「シュプラーデン(引き出し)」という題の舞台作品を観た。これはドイツのパフォーマンス集団「She She pop」と呼ばれる女性だけのメンバーによって演じられた作品である。

東西ドイツに分かれていた頃に、壁の両側で生まれた6人の彼女たちが、題の示す通り移動式の「引き出し」に詰め込まれた書籍やレコ-ドや手紙などを元に、それらを読み上げたり、曲を聴かせたりすることを交えながら、メンバー同士も会話をする。

舞台に設置されたスクリーンには彼女たちの言葉を補う映像が流れる。ベルリンの壁崩壊とそれに続く分断されていた両ドイツの統一はあれほど世界を揺るがす大きな出来事であったのに、われわれ日本人にとってはあたかもドイツがずっと一つであったかのように思えてしまうほど現在ではその記憶は薄れてきている。

しかしこの劇で交わされる言葉はひたすら、イデオロギーによって分断された両ドイツ国民のお互いへの誤解を、「東ドイツの女はロシア語でしゃべっていると思われていた」などという笑いを込めながら告発し、それが今も残っていることを知らせる。

アフタートークの時に来ていた知り合いのKさんが、ヨーロッパの女性の腰の高さに驚いたということと、自伝的な語りがそのままポリティックな(「政治的」と訳してしまうとその意味の広がりと深さは伝わらない)語らいへと変化してしまう点に特徴があると二人で語ったが、不満が残る点でも同意した。

それはあまりにも台詞で全てを語り尽くしてしまっている点であった。そう、隙間がないのだ。

アフタートークを最後まで聞くことなく、続いて元・立誠小学校へと移動し、Baobabの「家庭的 1.2.3」というダンスを観る。この集団は、メンバーは多少異なっているが昨年も観ていた。

しかし今年は本当に驚かされた。本当によく体が動くのだ。若者によくあるようなヒップホップの踊りだけではなく、体の動きのバリエーションが豊富なのだ。明らかにクラシックバレーをやっていたとしか思えないような肢体の伸びがあったかと思うと、椅子を使った個人の動きの見事な構築もあるし、郡舞があったかと思うと、それぞれが揃わない独立した踊りをして、それで全体の空間を構築するなど、見事としかいいようのない動きであった。

皆本当によく鍛えられ動きが正確なのだが、その中の一人の女性がすぐに目にとまった。彼女の肢体を鞭のようにしなわせる動きに、彼女の金色がかった茶髪と、ボタンをはめないではだけた白いシャツが彼女の手脚の動きにほんのわずかに遅れて連動するせいだ。

公演後出口で観客を送り出している彼女を見かけたときつい、名前を尋ねてしまった。彼女は岡本裕子さんと名乗った。他のメンバーと同様彼女のより一層の振り付けに期待したい。

しかし、彼らのダンスは動きという点では本当にのけぞるほど見事なのだが、感じる物足りなさはどこから来ているのだろうと考えて分かったのは、丁度この前に見たShe She popのパフォーマンスがメッセージを直接表現した言葉で埋め尽くされていたように、Baobabのダンスは巧みな動きで埋め尽くされていたからだと分かった。

年を取り肉体が衰えるとそれに応じて身体の動きに制限が加わり、それが集中された表現となる。しかし若いがゆえに制限のなさが、表現に力を与えないのではないだろうか? そんな風に考えた。

うまく言語化できないもどかしさを感じていたら、たまたま読んでいた本にこんな言葉があった。

「省略し、余白をつくること、その余白に物語らせること、(中略)表現し尽くさず、何も描かれていない余白を作者と鑑賞者が想像力の限りを尽くして完成させる、それが日本の美の精神であり、能がマイナスの芸術と言われる由縁です」(観世清和談、内田樹、観世清和『能はこんなに面白い!』小学館、より)

しかし、能に限らず、ドイツの演劇であろうと、コンテンポラリーダンスであろうと観客を感動させるメカニスムとしては、共通のものがあり、それはここで述べられていることに尽きると思う。自分流に言い換えればこの日観た二つの作品はそれぞれまったく素晴らしかったのだが、「欠如が欠けていた」とでも言えるような点に僅かながら不満が残ったのだと思う。(2013年10月24日。番場 寛)

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