「チベット文学と映画制作の現在-作家がなぜ映画を撮るのか-」講演と上映会(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、大谷大学国際文化学科共催)に出席して

12月5日に本学メディアホールで行われた小説家であり、映画監督のペマ・ツェテン氏とプロデューサーで詩人のサンジェ・ジャンツォ氏の講演を聴き、彼らが制作した映画『静かなるマニ石』を観た。

会場をゆったりとほどよく埋めるほど多くの聴衆が来られてほっとした。最初にお二人に挨拶させてもらったのだが、その時に三宅先生と二人で、お迎えした二人から白いマフラーをかけてもらい戸惑い驚いた。最後は今度はこちらから同じ儀式を行った。

小説家も映画監督も、ぼくにとっては長年羨望の的であったのにしかもそれを両方体現している人だなんて、しかもチベットの人だとはどういう人だろうと想像できなかった。聞くところによると英語もフランス語も話さず、チベット語の他は中国語だけしか話さないと聞き、どうやってお相手をしたらよいのか不安であった。

しかしお二人を一目見たときその不安は吹っ飛んだ。とてもやさしそうな微笑みを浮かべジーンズを穿き、ダウンジャケットと普通のジャケットを着た青年に見えた(実際は中年の男性なのだが、とても若く見えた)。

さて問題の映画はどうだったろうか? 素晴らしかった。題名の英語訳はThe Silent holly stone」であり、経文を石に彫っている老人にある家族がその石を依頼するのだが、その家族を取り巻く村の子どもたちを中心とした生活をたんたんと映し出している映画で特別なはらはらさせる展開は一つもないのに、観ていて一瞬たりとて退屈しなかった。

少年が荒涼とした山の道を疾走していくシーンを観たとき既視感があり、思い出したのはイランのアッバス・キアロスタミの『友だちのうちはどこ』という作品である。打ち上げの食事会のときにそのことを東京外国語大学の星泉先生の通訳で尋ねたら、やはりキアロスタミはかなり意識しているとのことであった。

映画は村に新しく入ったテレビでソフトの『西遊記』を家族全員や子どもたちだけで観るシーンとその地方独特の歌舞劇を観るシーンが何度も繰り返され、そこにラマ(仏陀の生まれ変わり)と呼ばれる少年へのお参りにくるシーンが挟まるという構成になっている。

その歌舞劇だが、そのテーマは信心熱い人がお布施を行うシーンが繰り返される。目の見えない人に、自らの二つの眼をえぐりとりお布施としてあげた王子の物語りや、愛する3人の子どもをお布施としてささげる父親とその子どもたちのつらい別れが演じられる。

この映画のテーマはいったい何なのだろうと考えた。最後に少年が借りて何度も観ていた『西遊記』のソフトの外箱をねだってもらう場面がありそのあと少年はいつもの場所に戻るところで映画は終わっている。しかもその前に彫っていた老人が亡くなったため「マニ石」の彫刻は完成することはなかったことが知らされている。

ぼくはひょっとして、あの空になった箱に、制作者自身が本当に観たい映画を入れたい(将来自分で映画を造りたい)という願いをこめている自伝的なテーマかもしれないと思い、それを食事会で語った。あの箱が空っぽだということが、現代文明のもたらす娯楽作品というのは中身が空っぽだということを表しているのだと分析した批評家もいたということを知らされた。

いろいろな見方が可能だろうが、歌舞劇を一緒になって観る村人たちの幸せそうな光景とテレビでソフトの映画を観る光景の対比、それらを無言で見守る宗教の象徴としての「マニ石」、この映画のテーマは「時の流れ」だと思った。どんな田舎にも押し寄せる現代文明の波、それによって変えられてしまうものもあるが変わらず残り続けていくものもある。

お二人とも大学院を出ているとお聞きし、経済的に豊かな家庭で育ったのかと星先生に尋ねたら、そうではなく二人とも高校を卒業してからすぐに働き始めたが、たとえばツェテン氏は小学生に教えているときにいかに学問が必要かしり働いたお金で自分で大学・大学院へと進んだそうだ。アメリカのある財団の奨学金を得て北京の映画専門学校で学ぶことができて今日に至っているとのことであった。

一般書店にはまだ並んでいないペマ・ツェテン氏の『ティメー・クンデンを探して』(星泉+大川謙作訳、勉誠出版)が大垣書店に並んでいたのですぐに買い、サインしていただいた。なお星先生からうかがったところでは、12月12日のNHKのBSでわずか10分間だがペマ・ツェテン特集を放映するそうです。関心のある方はお見逃しなく。

費用を初めとする手続き上のことで、十分準備に時間を割けることのできない中、企画された星泉先生、三宅伸一郎先生は勿論のこと、本学の国際文化学科の先生方、いろいろとお手伝いくださった院生のチベットからの留学生ラモ・ジョモさん、チベットを専攻している西山勝彦くん、そのほかのみなさんも、本当にありがとうございました。

(2013年12月6日。番場 寛)

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