勅使河原三郎『空時計サナトリウム』を観て(両国シアターXにて)

3月22日のこの公演は自分としては翌日「彩の国 さいたま芸術劇場」で観たピナ・バウシュが振り付けた「コンタクト・ホーフ」を観るついでといったくらいの気持ちだった。勅使河原と佐東利穂子が中心に踊るカラスの公演はずっと前に一度兵庫芸術劇場で観ていたが、その時思ったのは、これほど自身の肉体を切り刻み、時間を微分したかのような動きを造り上げたときあとどのようなことがダンスとして残されているのだろうと思った。

両国のシアターXという劇場は初めてだった。舞台は最初暗闇の中の背景に四角い灯りが点滅しているところから始まった。その直後に暗闇に天井から吊されたオレンジ色のライトが揺れる。その中を勅使河原と佐東が踊るのだが、それ以降の展開を今は言葉で再現できない。

それ以降の展開は、暗闇の中を走るゴトンゴトンという列車の音が流れる中、客席に無言の客が座数人座っており、以後「わたし」という語り手のもとに状況を説明する言葉が流れる。言葉でダンスを説明するのではないが、暗闇で聞く言葉は観客の想像力を最大限に刺激しイメージと物語を喚起する。

語り自体は明確なのだが、その脈絡がつかめない。列車に乗って到着したところが、どこなのか分からないまま、サナトリウムについて語られるが誰がそこで療養しているのかは明かされない。場面が転換して舞台には白い棺が置かれダンサー(勅使河原)はその上に横たわってまどろむ。その中に遺体として横たわっている筈の人は父親であるのに、語りでは青ざめた顔の父親が語りかけた言葉が語られる。依然として脈絡はつかめない。

次第に分かってきたのは、これは夢の手法を舞台化した作品だということだ。断片的には強烈で、それを見た瞬間にある説得力をもったイメージとして迫るのに、あとで振り返ってつじつまの合うように語ろうとすると語れない。

でも、なぜだろう。これを見ていた瞬間、また数日たった今思い出そうとするとき、ある既視感が蘇るのは。サナトリウム、棺、死んだ父、何処へ運んでいくかも分からない列車のゴトゴトとだけいう音、音はせず闇の虚空に揺れ続ける振り子時計。

何か分かった気がする。つまりこのダンスのテーマは、といっても言葉で説明し、それをダンスでなぞるといったテーマではなく、この作品全体として表しているテーマは、「死」だと思う。このダンス作品で描かれた「死」とは「死の意識」のことである。作品のタイトルの「空時計(からどけい)」とは時刻を指す道具ではなく、時間が過ぎていくこと、人が死へと近付いていくという当たり前のことを気づかせてくれる道具であり、サナトリウムもかつては死を待ちながら療養を続ける人びとの身を置く場だったことからも「死の意識」というテーマは間違いないと思う。

棺の上で眠る息子に青ざめた顔で語る父親というのは、『ハムレット』に出てくる亡霊の父と同じく、それがこの作品を観ている者に既視感を喚起するのだろう。

偶然同じ日に下北沢の「ザ・スズナリ」で観た燐光群の『現代能楽集 始めてなのに知っていた』という「既視感(デジャヴュ)」を扱った劇作品を観たのだが、その作品について作者である坂手洋二自身が、書いている「夢には所有格がない」という言葉を思い出した。「夢はだれのものでもない」ということは人が見る夢には共通点があり、それは誰にとっても根源的なものがイメージ化されるということなのだろう。

父親というのは自分の「生」の原因であり、その父親の死とは自らの死をも意識させる。暗闇の中でオレンジ色の光を先につけながら揺れる振り子時計は、「死をはらんだ生」そのものであるとしたなら、その下で踊るダンサー、勅使河原、佐東の動きは部屋全体の空間を構築するというより、自らの身体そのものの空間を、これでもかというほど微細に分節し、刻み続ける。時折、両手両足を大きく広げる開放的な動きも入るが、観る者を捉えるのは、敢えてバランスを崩し、引きつり、痙攣しているかのような動きである。

「生」というのはただ「死」に向かっているということだけでなく、「死をはらんだ意識」なしには「生の意識」というのはありえないということをこの作品も示している。(2014年3月26日。番場 寛)

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