ようやく体験できた、荒川修作+マドリン・ギンズ作「三鷹天命反転住宅 イン メモリー オブ ヘンレンケラー」

カラフルな球体と立方体を組み合わせたような住宅を訪れるためにわざわざ東京の三鷹まで出かけた。「三鷹天命反転住宅」の見学会が5月31日に行われることをネットで偶然知ったからだ。

久しく是非そこを訪れたいと思っていたのは、2年前に映画館で観た『死なないこども』でその住宅のコンセプトを知ったことと、2009年(荒川の死の一年前)に「日本病跡学会」(於 東洋大学)で直接、荒川本人と話したときの経験があまりに強烈だったからだ。

当学会の講演では、しきりに「今、世の中で創られている芸術作品なんてみんなくだらない」とか一斉に切り捨て「君たち」と多くの会員(大半が医師)に向かってあまりに尊大な雰囲気を与えるために、会場から一人が立ち上がれ「帰れ」と怒ったほどであった。

ぼくが感動し、今も覚えているのはその後の懇親会の時に直接荒川本人に話を聞いたときのことである。二つの話を聞いた。一つは彼の作品に心酔し研究していたフランソワ・リオタールに対し「お前の書いた本なんかみんなくだらない。燃やしてしまえと言ったらね。ぼくの目の前でね、泣きながら燃やすんだよ」という話だった。

しかしこの住宅をじかに体験したいと思ったのは、その次の話だった。「ぼくはね、小学生(中学生の時だったかもしれない)の時、医者の助手をしていたんだよ。そしてねもう助からない患者さんをみたときどうしたと思う。抱きしめてあげたんだよ」(全て記憶で書いています)。

眼差しはどこに向けられているのか分からない。同じ場にいるのにどこか違う世界にいる人のような感じを受けた。胸が一杯だったのは、彼だけの展覧回は2度だけだが、他の展覧回でも彼の作品を観るたびに、必ず大きな疑問符が浮かび、それが消えなかったからだ。

最初に見たのは「意味のメカニスム」というタイトルの、円筒や球や立方体の設計図のようなものに矢印や文字が絵の一部として入っており、それを観る者に強烈なその絵に対する「知」の欲求(意味といったものはどのように生み出されるのかをその絵は教えているのではないか?)をかき立てる作品だった。その体験はちょうどその後J.ラカンの「欲望のグラフ」と呼ばれるものを最初に見たときの衝撃と感動に似ている。「欲望のグラフ」は人間の身体が、シニフィアンとよばれる言語的なものによって分節されて「欲望」が発生するメカニスムが図として描かれているからだ。

それからかなり時を隔てて東京の近代美術館で観たのは、シーソーのような板に観客が乗って作品を体験するような作品で、今回見学した住宅の概念はそのときにすでに萌芽が見られたのだと今は思う。

さて、実際の住宅体験だが、専門の学芸員の方の親切な説明で、使われているおよそ十数種類ものカラフルな色彩は人が数えることができず、特定の色彩が気にならないよう配慮されていること。天井と床が逆の方向に傾斜しており、立つ位置により空間の広がりが違って知覚されること。収納家具は何もなく天井のフックに長短の棒を引っかけそこに見の周りのものを欠けることで空間が変貌すること。何本か立っている柱はよじ登ることができること。などが説明された。

しかし何よりも実感できたと思ったのは裸足で歩いた床である。大小2種類のなだらかなでこぼこで全て覆われており、それが子どもと大人の足の土踏まずの大きさに合わされているのだという。ざらっとしているそこに足をあてたときの心地よい感覚は今も残っている。

また全盲の方も最初ゆっくり一通り歩けばすぐにこの部屋の全貌が分かるように設計されているという。普通の家が労働から回復するための家であるとしたなら、そこは身体を覚醒させることがそのまま安らぎへと繋がる家となるのだろう。それが彼らの著書の題名でもある『建築する身体』ということなのだろう。

一面黄色に塗られた内側が球場の部屋に見学者20名ほどで入って撮ってもらった写真は貴重なものでここで公開したいのだが、可愛い女性たちの顔もはっきり映っているので止めておこうと思う。(学芸員のブログで見れるかもしれない)。

最後に事務所として使われている部屋を見せてもらったとき、ドアもついていないという評判のトイレ(現在はカーテンが掛けられていて、音を消すための音楽を流すようになっている)も使わせていただいて満足して帰った。

その時いただいたパンフレットに書かれていた二人の言葉を引用しておこう。

この住戸に入居された方は、建築する身体になるばかりでなく、生体位相研究家(バイオトポロジスト)としても生きることになるでしょう。自分を取り巻くものと全面的にかかわれば、建築する身体になります。また通常以上に、様々な規模の出来事に気づき、それに専念すれば、プロの生体位相研究家として生きていくことになるのです」。                       (2014年6月4日。番場 寛)

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