老いながら演出し、舞台に立つこと―「カントル研究会」、さいたまゴールド・シアター 「鴉よ、おれたちは弾丸をこめる」―

11月23日、24日とフェスティバルトーキョーの舞台作品を観るために東京に行ったのだが、23日にポーランドの亡き演出家タデウシュ・カントルの研究会があることを知り、前に購入していた同時間に行われるダンスのチケットを無駄にしてまで研究会に参加することを選んだ。それは間違ってなかった。

13時30分に終わる予定のミャンマーのモ・サ出演・構成の「彼は言った/彼女は言った」が終わるのも待たずにタクシーに乗り、研究会の会場、「シアターX」のある両国へ向かった。予定より少し遅れてカントル自身のインタビューを中心としたドキュメンタリーを見た後、青木道子、扇田昭彦、四方田犬彦の3氏がそれぞれの生前のカントルの思い出を語る会であった。

寺山修司の研究会に参加したときも思ったことだが、確かに生前の芸術家と直に接した人の話はその芸術家を彷彿させるという点で興味深いものだが、回顧談に終始してしまうとその芸術家が生み出した作品の理解には何も役に立たないことがあるので、今回もそれほど期待して参加した訳ではなかった。

しかし、今回の研究会はとてつもない程多くの収穫があり、その多くは四方田犬彦氏の発言によるものだった。彼が語った多くのことはどれも面白かったのだが、特に強く今も残っていることを少しだがここに書いておこう。

カントル理解に欠かせないこととして、彼が育ったカトリックとユダヤ教が併存した環境を考慮するなら、ユダヤ教とカバラの専門の人にカントルの劇作品を見せて意見を聞くべきだという意見や、3時間にもわたってカントルにインタビューしたときの話など、どれも面白かった。

またカントルが平均60才くらいの素人を使って作品を演出したことを踏まえて、カントルが老いながら演劇をやるということに注目したいと言った。またカントルがいくつも「宣言」をいうものを出しその度にそれまでやってきたことをご破算にしてあらたなスタートを切ったことと、現代また自分はそれが誰か知らないが、「前衛」を目差す新たな動きが生まれているという推測を述べた。その話が本当であって欲しいと思った。

またぼくが彼の演劇論は寺山のそれと比べて読みにくいが、原文ではどうなっているのかという質問をし、それに対し京都市立芸術大学の加須屋明子氏が原文も同じように書かれており翻訳は忠実だと答えられたとき、四方田氏が言った言葉も良かった。本は読めないものだ、例えば土方巽の本なんか一日で一頁も読めないと言ったのだ。彼は多くの翻訳や本に関する著作を出しているが、それだけの時間と努力をしていることが分かったからだ。

さらに、彼に寄れば同じく前衛劇作家のベケットの欠点として彼の劇は戯曲として完璧であり、再現可能であることをあげ、カントルのすごさは土方と同じく「再現不可能性」だと説明した。

3時間があっという間に過ぎた感じがして、それから西巣鴨に移動して「にしすがも創造館」で蜷川幸雄演出の平均年齢75才の老人の方々が演じる、清水邦夫の戯曲「鴉よ、…」を観た。最初が素晴らしかった。舞台上にいくつも置かれた水槽のなかに赤ん坊のように身を縮めて老人が横たわるところから始まった。

反体制の学生運動をして警察に追われて祖母に助けを求めて逃げ込んだところが裁判所という設定で、若者以上に過激な言動を老人たちが繰り広げるどちらかというとドタバタ劇なのだが、30年以上前に東京の「パルコパート3」で観たカントルの「死の教室」の衝撃がまだ頭に残っている目には、それほどの衝撃はなかった。

それでもまず驚き感心したのはそれぞれの老人たちが長い台詞を覚えてちゃんと発声していたことだ。年を取ると体の動き以上に記憶力が衰えるが、ここまで台詞と演技をできるまでにかけられた努力を想った。

劇の中で祖母が孫までも殺害する動機が今ひとつ理解できない演出に不満を覚えた点を除けば、これこそ四方田氏が言っていた「老いながら演劇を行う」ことの実演だと思った。京都でも「アトリエ劇研」で同じように老人を中心とした作品が実演されているが、あくまでカントルのような「前衛」を目差してもらいたいと願っている。なぜなら人は生き抜くだけで文字通りの意味で「前衛」なのだと信じたいからだ。(2014年11月26日。番場 寛)

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