チョン・ジュリ監督「私の少女」を観て(京都シネマにて)

久しぶりにペ・ドゥナが主演した映画だとポスターで知り観に行った。僕が、彼女を映画で見るのは3度目に過ぎない。最初は東北の元気な女子高校生のブラスバンドを描いた「リンダ リンダ リンダ」でへんな日本語を話すほのぼのとした留学生を演じていたのに、次に観た「空気人形」では、目を奪われるほど美しい肢体をしているのに、幼児のような言葉しか話せず、それがひょんなことで心を持ってしまい、「愛」に苦しむラヴ・ドールを演じていた。

何年かぶりで最初にスクリーンで彼女を見たとき、あっ、やはり時間が経ったんだ、と思った。女性警察官という役でつねに緊張した表情をしていることもあるが、大写しにされた顔は大人の顔だった。

彼女は最初警察のエリート組だったが、観客には分からない理由で地方に左遷され、そこでは所長として働き始め、自転車で見回りをしている。その時、仲間からいじめられている少女を助け、別に日にはその少女が父親や祖母から暴力を受けていることを知る。

以下はネタバレになるので映画を観てから読んでほしい。

見かねた所長(ペ・ドゥナ)は彼女を自宅にかくまい、しばらく一緒に生活することになる。それで少女の父親が本当の父親でないこと、母親が出て行ったこと、父親は酒を飲むと暴力を震うことを知らされる。同じように少女に暴力をふるっていた祖母が自分の運転していたトラクターの事故で亡くなるが、少女はそれについて知らないと答える。

観客は、最初なぜ所長が左遷されたのかは分からないが、自宅に帰るといつも酔えない状態で酒を飲む姿から、彼女が今も苦しんでいることは分かる。

少女をかくまって何日かたったある日、所長を一人の若い女性が訪ねてきて、彼女は所長と昔深い関係にあったのであり、彼女との同性愛が左遷の理由だったと観客にも分かる。二人が会っているところを、少女の父親に見られたことで、彼が不法滞在者を雇用して、しかも彼らを不当な扱いをしていることを所長が厳しく注意したことを根に持った父親は、所長が自分の娘に対し、性的虐待を行ったと告発する。

この映画を見ていて恐ろしいと思ったのは、取り調べに際しての、被害者とされる側の証言の扱いである。少女の証言を聞くとき、専門の女性の係員が二人で、所長と一緒に生活しているとき、体に触られたことがあるかと聞かれて、頷いたとき、どこを触られたかを、人形を使って尋ねられた時、少女は人形の両脚を何度もこすったのだ。それで所長は折の中に入れられ、尋問されることになる。映画に映った場面からだけ判断すれば少女が嘘をついたことになる。

ところが少女は父親と暮らすようになったとき、酔って眠りこけている父親の床に、服を脱いで潜り込み、警察官に預けられた携帯のスイッチをいれたまま、自分から父親からその時父親から虐待を受けているよう装い、かれを現行犯で逮捕させることに成功する。

サスペンスとしても非常に巧みに組まれており先の展開が読めないように作られているが、この作品の素晴らしさはそれだけではない。やはりペ・ドゥナと少女の魅力によるところが大きい。言葉と言葉の間に埋められないほど深い谷があり、二人の孤独が共鳴する。同性の恋人と別れねばならなかったように、少女に対しても母親になることはできない。

若い警察官が少女について「彼女は苦労してきたせいかもしれないが、とても大人びているというか、ときどき怪物に思えるときがある」という台詞が示しているが、久しぶりに本物の「ロリータ」を見た思いがした。

僕なりに「ロリータ」を定義すれば、それは埋めようのない「時の隔たりの感覚」であり、「自分の過去の時間の喪失感をいやおうなしに感じさせる、少女」ということになろう。

美しい肢体はもちろんのこと、知識ではない頭の良さが要求される。この映画のロリータが新鮮なのは、ペ・ドゥナ自身がかつてロリータであり、その彼女がタイムマシンの鏡に映った自分の過去を見つめているかのような相乗効果を与えることだ。

最初道ばたに転がされ、泥まみれになっていた少女が体を洗われ、床屋に行き、似合う服を着せられていくと見違えるように綺麗になっていく。解放され心から微笑むとき、素晴らしい笑顔と、その彼女が、ただ自分の身を守るために知恵を働かせるときの、怪物のような姿の対比が本当に見事である。

それ以外にもこの映画は重いテーマも描いている。それは不法滞在労働者と差別を受ける同性愛者(現実の韓国社会は知らないがこの映画の地方の港町ではそう描かれている)という、社会から隠れて生活しなければいけない人たちと、それを裁く側の人たちである。その両方の立場の人間を、女性警察官であり、しかも所長という職にある同性愛者という人物を主人公においた女性監督チョン・ジュリの脚本の見事さが際だった。(2015年6月25日。番場 寛)

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