夏休み感満載の一連の劇作品 藤田貴弘と「マームとジプシー」を体験して

7月30日の午後6時30分頃だろうか、木屋町通りに面した会場となる元立誠小学校の入り口の階段に座っていた。「マームとジプシー」という劇団の作品のキャンセル待ちのためだった。

こんなにも緑が多かったんだと驚き、空を見上げると青空で雲が浮かんでいる。そこに蝉の声が上っていく。今自分がどこにいて何をしているかを一瞬忘れる。そうこんな感じ、これこそ夏休みだ。まだレポートの採点も、学科会議も残っているが、授業がないというだけですっかり夏休み気分だ。空を観ながら、他のみんなは何をしているんだろうと昔の夏休みのように思ったが、今の自分には「他のみんな」なんていないことに気づいた。

キャンセルが出てどうにか観ることができた藤田貴弘作・演出の「0.1.2.3」というこの日と二日後に観た3部作だけでなく、藤田の作品は「夏休み感」満載の演劇だと思った。

「0.1.2.3」では「赤ずきんちゃん」「シンデレラ」など童話のモチーフが台詞に散りばめられているが、台詞回しがまるで母親から童話をささやかれているような気にさせられる。

それだけではない。藤田の書いた台詞にはつねに「あの頃」「どこか」「いつか」「未来」「旅に出る」等、登場人物が今、ここで話していてもその内容は今でもなければここでもない時間や場所について語られ、それを聞いた観客は別の空間と時間に想いを馳せることになる。

実はこの一月は「マームとジプシー」というか藤田貴弘月間だった。7月8日の京都精華大学での彼の講演「言い足りなさを 」を皮切りにかれの7月10日の京都芸術センターでの演劇のワークショップに、若い人に混じって参加し、7月30日の京都造形芸術大学、春秋座での「AとSのあの夏。浮かび上がる記憶の町」を観てそしてこの「0,1,2,3」だった。

26歳で岸田戯曲賞を取り、現在31歳という若さでまるで時代の寵児とも言える彼の活躍ぶりの秘密を知りたかった。昨年東京芸術劇場で彼の演出した寺山の「書を捨て街へ出よう」を演出したのを観たときには、鉄パイプをやたら組み直しそこに上って台詞を言う演出も、俳優のわざと抑揚を抑えた台詞回しも良さが全く分からなかった。なぜ彼がこれほどもてはやされるのか分からなかった。

しかし今回彼の作品を通して観て分かった。心地よいのだ。講演会の時に聞いた話では丁度能楽師が3歳のころから親の修行を受けるように、かれは中学生の頃から母親の指示の下、高校もまるで演劇養成ギブスをはめられた子どものように演劇づけの生活だったのだ。

劇を観ていると、彼にとっては言葉は読むものというより耳で聞くものだということがよく分かる。若い女優から発せられるそれは、童話の朗読のように心地よく、ときどき難解な詩のような言葉が混じるが、同じ台詞が時間を置いて何度も反復されることで自然に聞いている者に感覚的に理解される。

たとえば「ずうっといつまでも友達でいようね」というありきたりの台詞も、時間を置いて反復されると観客の心にノスタルジーを喚起し、そんなことは不可能だという想いと相まって甘美な心地よさを揺りかごのようにもたらす。

一番面白かったのは、3の「カタチノチガウ」だった。これは「シンデレラ」を下敷きにした血の繋がらない3人姉妹の話だった。父親による性的虐待や彼に対する3女(?)の殺人などおどろおどろしい話もおとぎ話のように語られ、同時にひらひらとした白を基調としたまさに「少女性」全開の衣装と体操のような彼女たちの身体の絡み合いから、悲惨さ、現実性をはぎ取られ、全てが淡い夢の中の世界のように語られる。

「カタチノチガウ」ということは言い換えれば、トポロジー的には同じということで中身(本質)は同じということである。「0,1.2,3」というタイトルは登場人物の数を指しているが、人物はそれぞれ「カタチ」が違っていても、「物語」を観客の頭の中に喚起する記号のように機能する。

最後は8月5日の京都精華大学での俳優の一人、3人姉妹の姉を演じていた青柳いずみさんのパフォーマンスを観た。どの作品を観ても彼女の発声の見事さが際立っていたが、今回は一人だったので今まで以上に驚嘆した。細い体からどうしてあのような声が出るのだろう?

川上未映子の詩を表現として一人で発声するのだが、スピード、抑揚の変化、本当に一人でここまで表現できるのかと思うほど見事だった。

藤田貴弘さんと「マームとジプシー」がなぜこれほど今の時代においてもてはやされているかは十二分に分かった。確かにこの心地よさは認めざるを得ない。観客はお金を払って観るのだから、心地よさは重要だ。だがぼくはもっと違った演劇、違った表現も探している。(2016年8月6日。番場 寛)

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