死者は年をとらない―「日輪の翼」「アマハラ」を観て―

 秋になると観たい舞台が目白押しだが、最近気づいたことだが、目の前の舞台を確かに見ているのに想いは同時に別の舞台に飛んでいることがよくある。
 
9月2日に大阪の名村造船所大阪工場跡地の野外で観た、やなぎみわ演出の中上健次原作の『日輪の輪』を観ているときのことだ。様々な死者たちのことが浮かんだ。中上の小説の豊かな神話的世界を2時間あまりの飽きさせない舞台にした演出家と役者にまず賞賛を送るべきなのだろうが、さまざまな死者たちの記憶が去来した。
 
トレーラーの上にポールとたてたり、客席に近い両脇に太いポールをたらしたりして、劇の進行とは関わりなく水着姿の若い女性がポールダンスをするのを観ていてずっと昔、寺山修司の舞台では必ずといっていいほど劇の進行とは関係のない全身白や緑色にぬったヌードの女性が体をくねらせていた姿を思い浮かべていた。
 
派手な観客の度肝を抜くような舞台装置も寺山の舞台そっくりだと思った。時代が経ても変わらないのは寺山の書いた言葉の美しさなのだが、この『日輪の輪』の言葉も普通の会話ではなく、・・・鳥と・・・鳥のさえずりを空で縫い合わせる、などという中上の言葉が山崎なしのおかげで美しく舞台にはめ込まれていた。

寺山修司46歳は中上健次47歳で亡くなっているが今も多くの人に影響を残している。同じ野外劇だったからだけではない。今年69歳で亡くなられた松本雄吉さんの維新派の舞台を観る度に寺山の天井桟敷の舞台を同時に思い出していて物足りないところと、新たに加わったすばらしい点を感じていた。

『日輪の輪』を観ながら同時に他の二つの舞台を観ていた訳だ。そして10月17日に平城宮の跡地で、松本さんが最後に演出し完成したものを目にすることなくあの世に旅立たれた「アマハラ」を観た。
 
維新派の舞台は宿泊をしないで観ることができるものは殆ど観ているが、いつも感嘆する訳ではなかった。あのラップのように単調なリズムで集団で発せられるリズムと俳優達の動きは観ていて心地いいのだが、言葉本来が持つ深さ、物語的時間の奥行きを感じるには不十分なのではないかと感じるときも度々あった。もう維新派を観るのはいいかなと思う事もあった。
 
しかし今回はもうこれで観れないかもしれない、観れたとしても新作はないので無理して行った。足場が悪いので長靴を勧めるし、雨合羽の用意をするようにということで大和西大寺から20分も歩いてたどりついた舞台は、ギリシア神殿のような柱だけが建ち並び、遠くの山を背景にしたものだった。幸い雨は降らず、背景には背高泡立草だと思われる草花の群生がライトに照らされていた。夕焼けから次第に暗くなると星が多く見えた。
 今回は日本人のアジア進出の物語を前面に台詞でも語るもので改めて松本さんがめざしていたものが少し分かった気がした。同時に松本さん自身の思い出も次々と蘇ってきた。今年亡くなるアトリエ劇研で、若い演出家の作品を見に来ておられるときにお話したこと、松田正隆さんの絵画鑑賞型の「広島―ハプチョン」という作品のアフタートークの時「この作品はのちに最大のスキャンダルとされるか革新的な作品として評価されるであろう」という内容のことを語られたことなど次々と思い出された。
今回の「アマハラ」で驚いたのは物語性を強く打ち出していることだけでなく、ノースリーブの女性が柔らかなくねらせる曲線的な動きの踊りをしている場面が目立ったことだ。
 
白塗りし、帽子を被り、半ズボンを穿いた少年を少女や女性達が演じているのが維新派の定番だったから驚いた。大きな皮のスーツケース、石炭や重い荷物を運ぶ労働者、定番の衣装ももうこれで観られなくなるかもしれないと思うとより貴重に思えてくる。
 
今回気づいたのは「女性性の強調」以外には、ある人物の周りをもう一人の人物がわまるという振付が加わったことである(ひょっとして前からあったのかもしれないが)。なぜなら客席に向かって水平か垂直に向かう動きが維新派の舞台では多いからだ。
 
平城宮跡という長い時間の跡にまるで奇跡のように演じられた舞台を残した人。その人は69歳で止まりもう年をとることはない。今回の舞台でも繰り返されたが登場人物の少年の「オーイ」という呼び声は、死者たちへの、そして死者たちからの呼び声に聞こえた。
(2016年10月26日、番場 寛)

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